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あとがきとかメモとか諸々。
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06:The entrusted selection
CFY:ランクとユージーン





 *****


 がらんとした店内を見渡して、ランクは溜息をついた。
 誰もいない店内は静かだ。
 普段から閑古鳥が鳴いていて静かであることには変わりはないのだけれども、この無人の静けさというのはそれとはまた違って、ある種異様なものがある。
 従業員(というには語弊がある)達はみんな隣の劇場に駆り出された。
 結局、なんだかんだでもう一度ショーをやることになったらしい。
 『らしい』というのは、きちんとした話を訊こうにも、あいつらが興奮していて話にならないからだ。
 やはりあの連中は“懲りる”という単語を知らないようだ。
 キィと、それまで鳩時計が時を刻む音だけが響いていた店内に別のものが混じる。
 二階の通路へと続く扉が軋む音と共に開くと、そこからは唯一の客(と認めるのは釈だが、仕方ない)が顔を出した。
 「……おはようございます」
 と、投げやりながらもなんとか先に切り出したのは悲しい(一応)客商売の性だろう。
 「おはようございます。うちの家内見かけませんでしたか?」
 「いや。今日はまだ見てませんね」
 「どこにいるか御存知ない?」
 「全く。他人の嫁さんの行動までかまっちゃいられねえもんで」
 「それもそうだ」
 「大体、亭主のあんたが把握してないのに、どうして俺があんたの女房の居場所を知ってると?」
 「それはとても正論なんですが、そういうものが通用しないのがうちの妻なんです」
 「――……どんなだよ?」
 「ひとの予想の右斜め上をいくようなひとです」
 だから、どんなだよ?
 と思ったが、口には出さなかった。
 これ以上訊いてもロクなこたえが返ってきそうにない。
 「だったら、首に首輪でも嵌めて、しっかり鎖で繋いでおけ。そんなのをそのへんに放し飼いになんかするな!」
 「できるならとっくにそうしたいところなんですがね。生憎、私程度に御しきれるような相手じゃないもんで」
 そういって、英国紳士は「ははははははは」と爽やかに笑ったが、その瞳が限りなくマジだった。
 ランクはあえてそれを見なかったことにした。
 やはり得体の知れない男だ。
 底の知れない、といったほうがいいかもしれない。
 どことなく背筋に冷たいものを覚えながら、別の話題に切り替える。
 「――……良い話と悪い話がある」
 我ながらどこかで聞いたような台詞だ。
 「悪い話?」
 「もう一度ショーをやることになった」
 「では良い話は?」
 「もう一度ショーをやることになった」
 「……」
 彼は一瞬、どうこたえようかと迷ったようだが、少し思案気な表情をすると、神妙に「それはおめでとうございます」といった。
 「あんた、ちっともおめでたいと思ってないだろう?」
 「そんなことはありません。妻とも話していたんです。『えらいときに来てしまったね』と」
 それなりに気にしてますよ。
 と、彼は言った。
 つまり、この胡散臭い夫婦がこの間の件をそれなりに気にかけてしまった結果がこれというわけだ。
 つくづく傍迷惑な夫婦である。
 「この件に関しては概ねあんたたちのせいだと思うんだが、異論はないよな?」
 「ひとを諸悪の根源みたいにいわないでください」
 「間違っちゃいないだろう」
 「別に悪いことじゃないでしょう?ショーをやれば成功するかもしれない。成功すれば、街は潤い、隣のお嬢さん方は劇場を抵当から出せる」
 「それで俺の計画はパアになる、と」
 「――風が吹けば桶屋が儲かるそうですよ」
 彼はほんの微かにランクから視線を逸らした。
 それは彼流の冗談なのか、それとも一応慰められたのか。
 いまいちよくわからない。
 「あんまり、煽ってくれるな」
 溜息混じりにランクは洩らした。
 「煽る?とんでもない。私達はほんの少し背中を押しただけ」
 「世間一般じゃあそれを煽るっていうんだ」
 「なんて人聞きの悪い。なんだかんだで、結局、選んだのはあの皆さんです」
 「俺がいうのもなんだが、あいつらはな、阿呆だ。後先なんか考えちゃいないし、懲りない」
 「だから、せめて御自分だけはしっかりしていないといけない、と?意外と苦労性なんですね」
 「だまれ!」
 ランクが一括すると、彼は「やれやれ」とでもいうように苦笑した。
 「――……どうせ失敗するってわかってることをやるなんて馬鹿げてる。正気じゃない」
 「やる前からそうやって決めつけるものではありませんよ」
 「今までにうまくいった例しがない」
 「今度は違うかもしれない」
 「何もかもがうまくいくわけじゃない」
 「――わからないな」
 彼は呆れたように短く息を吐いた。
 「やらなきゃ絶対負けるけど、やればもしかしたら勝つかもしれない」
 「――」
 「絶対ともしかしたらって結構違うと思いますけどね」
 そういうと、彼はこの話はこれで終いだとでもいうように軽く手を振って、「妻が戻ってきたら教えてください」と言い残して、再び扉の奥へと戻って行った。
 「――……何の勝負だよ?」
 ゲームじゃないんだ。
 と思ったが、まあ、似たようなものかもしれない。
 ゲームにしろ、ショーにしろ、まずはやらなければはなしにならない。
 肝要なのは、全力をつくすこと。
 それだけだ。










END




異国の言葉で10綴り
06:The entrusted selection (委ねられた選択)

ひっそり福岡楽記念。





奥さんのことを旦那がなんて呼んでるのか想像がつかないんですが、先日「こちらは家内のパトリシア」といっていたので(他所さまのレポ拝見してると「妻」と書かれてる方もいますし、私も前回は「妻」だった気がしたんで、危ういです)……「家内」とゆー単語を聞いた瞬間に、「なんて独占欲と支配欲の強い旦那なんだ(笑)!」と思いました(末期)。
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