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あとがきとかメモとか諸々。
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猫:ランパスキャットとジェミマ



 *****

 ランパスキャットはその視線に気付いていたが、あえて何もいわなかった。
 それは割といつものことで、そしてそれを放置しておいてもさして害のないことを、ランパスキャットは知っていた。
 ランパスキャットは寝床にしている廃屋の、日当たりの良い縁側で丸くなっている。
 長かった残暑もすぎ、吹く風には少しずつ秋の気配が混じり始めている。さあさあと音を立てて、乾き始めた下生えを、毛並みを撫でて行く風は心地よかった。
 少し離れたところでは、小さな三毛の少女がランパスキャットと同じように丸くなっている。
 その少女にランパスキャットと違うところがあるとすれば、唇を固く一文字に引き、眉根を寄せているところだろう。三毛の少女は難しい表情で白黒ブチ猫をじっと見つめていた。
 くああぁ。
 と、ランパスキャットは欠伸をした。
 「――ねえ」
 ふいにジェミマが口を開く。
 どうした?
 と応えるように、ランパスキャットがうっすらと片目を開けると、ジェミマは何事かを言おうと口を開く。しかし、結局、その言葉はジェミマの口の中で澱み、鮮明にはならなかった。
 ランパスキャットが再び瞼を閉じようとすると、慌てたようにジェミマが再び口を開く。
 「ねえ、」
 「なんだ?」
 「――……」
 しかしジェミマはすぐに押し黙ってしまった。
 おそらく、このままでは暫くこのやりとりを繰り返すハメになるだろう。
 埒があかない。
 ランパスキャットは軽く溜息をつくと、億劫そうに瞼を下ろす。下ろした瞼を、ランパスキャットはすぐに持ち上げることとなった。
 「ねえ、それ痛い?」
 「あ?」
 一瞬、何のことだかわからず、ランパスキャットは間の抜けた声をあげる。
 それが、彼の身体についた傷を、特に左腕を深く抉るようについたものをさしていると気付くまでには、少し時間がかかった。
 喧嘩猫という異名がさす通り、ランパスキャットが怪我をするのは珍しいことではない。
 ランパスキャットの全身のいたるところに大なり小なりの傷があったのだが、左腕のものはことのほか大きかった。
 ランパスキャットがその傷を負った日から月を一つ跨いだが、それはまだ完全には癒えていない。その周りだけ筋肉がひきつれたように醜い蚯蚓腫れができている。おそらく、跡になって残るだろう。とはいえ、女ではないランパスキャットにはさほど気にはならなかったが。
 「……痛くはねえな」
 「ウソ!?」
 「嘘付いてどうするよ?」
 「それは――そうだけど……」
 痛みはない。
 彼本来の調子には程遠かったが、骨や筋肉に致命的なダメージを受けたわけでもない。
 鈍く残った奇妙な違和感も直になくなるだろう。
 「ええと、その……ごめんなさい」
 はて。何か謝られるようなことはあっただろうか。
 ランパスキャットは眉間に皺を作って考え込む。
 それを非難ととったのか、ジェミマは先を続けた。
 「悪かったと思ってる。だから、もうしない。約束する」
 言われ、ようやく、ジェミマがこの怪我の原因となったことをさしているのだと気付いた。
 ジェミマが隣の縄張りの猫から買わなくてもいい喧嘩を買ってしまったことがそもそもの原因だ。
 ランパスキャットは仲裁に入るつもりが、悪化させて、結局、怪我をした。
 「――おまえのせいじゃない」
 ひとえに、自身に仲裁能力がなかったことが悪い。と、ランパスキャットは思っていた。マンカストラップあたりならば無難に解決できただろう。
 「でも」
 「気にするな」
 そもそも、力ずくでなく収められる問題だった。火に油を注ぐようなことをしたのはランパスキャット自身だ。
 それでジェミマを責めるのは筋違いだろう。
 「いや――――そうだな。やっぱり、少しは気にしろ」
 「…………うん」
 力無く返事をするジェミマを手招きすると、ランパスキャットはにやりと笑って、その額を小突いた。
 「いつでも助けてやれるわけじゃないからな。勝てない喧嘩はするもんじゃない」
 「勝てればいいの?」
 「――――とにかく、無駄な喧嘩はするな」
 「……うん」
 はたして、この言葉にどれだけの意味があるのか。
 一応、余所とはやり合うなと教えてきたつもりだったが、結局のところはこのざまだ。
 三毛の少女はもう子供ではない。
 自分で考えて行動するようになっている。それがときに周りの意見と反することであっても。
 少しずつ、けれども、確実に。
 いつか、彼女が自分の手の届かないところへ行ってしまう日がくるだろう。そう遠くないうちに、必ず。
 いずれ、変わらなければならない。
 彼女も、自分も。
 ランパスキャットは小さく溜息をつくと、左腕の傷をそっと撫でた。
 「まあ、いい教訓になったよ」
 触れた箇所には相変わらず鈍い違和感があった。










END




二次熟語で100のお題
21:傷跡










8周年記念に各活動ジャンル最萌CPを書こうセルフ企画その1(笑)。
しかし、自分で書いたものにはもえられないというかなしい罠。


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