あとがきとかメモとか諸々。
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夢醒:配達人
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閉園時間を過ぎた遊園地は、静かに眠りについていた。
観覧車は黙ったまま園内を見下ろし、アイスクリームショップはパラソルをたたんで、広場の片隅で自転車と一緒に大人しくしている。
マリオネットは幸せそうな表情でフランス人形に寄り添って眠り、玩具の兵隊は無言のまま一列に整列している。
昼間訪れた人達が、従業員すらも帰った後。
誰もいなくなった遊園地の明かりは全て消され、ひっそりと静まり返っている。
一番最初に何が起こったのか。
それは誰にもわからない。
いたずら好きの白黒ピエロが眠りから醒めてみんなを叩き起こしたのがはじまりかもしれないし、マリオネットがいないことに気付いた仮面の貴族が慌てて相棒を探しはじめたことかもしれない。
あるいは――
彼はふと虚空に現れた。
今、この世界は、この時間は彼のものだ。
彼の許しなしには何者も動くことはできない。全ての者は眠りについていて、皆、しあわせな夢をみている。
彼は眼下の遊園地を一瞥すると、ふっと微笑んだ。口元を緩めるだけの微かなものではあったけれど、それは確かに微笑と呼べるものだった。
そして彼は苦笑する。
未だに笑えることが、彼には驚きだった。そんな感情はとうに失くしてしまったと思っていたのに。
これから、彼は一人の少女を迎え入れる。
これから起こることを、これから起こり得ることを、彼は知っていた。
それは不確かな要素の重なりあったもので、本当にそうなり得るかはわからないくらいの確率の上に成立しているものではあったけれど。それ故に、どうしてもそうなるということを彼は知っていた。
だからこそ、彼はそれを見てみたくなった。
本当にそうなるのか。
現実を夢に変える力を。
夢が現実に変わる瞬間を。
虚ろを満たしてくれる何かを。
希望を託せる存在を!
彼は空を見上げる。
月が出ていた。
雲一つない夜空だ。月がこんなにも皓皓と輝いているのに、不思議と星星もはっきりとみえる。
今、この瞬間、彼女はまだ心地良い眠りの中にいるだろう。
これからのことに思いを馳せると、彼は静かに瞳を閉じた。
月と星が煌めく夜。
こんな夜に家の中にいるなんて勿体ない。
「――さあ、今夜もまた夢の幕を開けよう」
END
東京夢開幕。
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