あとがきとかメモとか諸々。
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GH:2010年寒中見舞い。
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1月半ばの街は、いつもと少し雰囲気が違う。
年末年始の騒がしさは過ぎ去って、街は少しずついつもの姿を取り戻しはじめている。
束の間の休息を終えて、現実へと戻ってきたばかりの人々は、外套の前を掻き併せて忙しなく足を進めている。
真砂子は彼等を横目に見ながら、のんびりと歩いていた。
黒のセーターに同じ色のスカート。黒革のブーツから覗く脚を覆うのも黒いタイツ。ショートコートの色も黒。
それでも暗い印象にならないのはオフホワイトのマフラーのせいか、それとも。
待ち合わせの為に洋服を着てきたが、この格好ならば誰も『原真砂子』に気付かない。
不思議な感覚だが、悪くはなかった。
マフラーとコートの僅かな隙間から覗く、V字に開いた襟元に寒さを感じて、真砂子はその部分をマフラーで隠した。
やはり、着物で歩いているときよりも、少し寒い。
余裕をもって家を出たせいか、待ち合わせの時間までは幾分時間がある。
ショーウィンドウを眺めながら、ゆっくりと向かっても充分だ。
日本人にはありえない十等身のマネキンはガラスケースの中でこの冬の新作ファッションに身を包んでいる。その姿は頭の先から爪先まで一分の隙もない。
今歩いている通りの洋服を買うには十年程早いが、それでも、それなりに憧れはあった。
普段、主に着物を着る生活をしていると、必然的にそれにあうものを選んでみてしまうのだけれども、今日は自然と違うものに目がいく。
着ているもの一つでこれだけ変わるものかと思うと、なんだかおかしかった。
ふと、真砂子は立ち止まった。
――あのマフラー……。
それを見たときに、ほんやりと、「彼に似合うだろうな」と、考えた。
淡い青色のマフラーは彼の瞳とよく似た色合いで、彼の蜂蜜色の金髪や、白人らしい色素の薄い肌によく映えるだろう。
なんとなく視線をそのまま横にずらすと、そこには対照的な黒のマフラーがあった。
真砂子は苦笑する。
少し前までなら、間違いなくこちらをみて、似たようなことを考えていただろう。
あの所長サマは滅多なことで黒以外を着用しないのだから。
雑貨や小物……何を選ぶにしても、まず「黒」が絶対条件だった(もっとも、所長サマが黒以外を着用しないことには乙女が想像するような夢のある理由なんてなかったのだから、黒以外でも気に入ればよかったのだろうが)。
本当に、変われば変わるものだと思う。
とはいえ、所長サマのことが気にならないといえばそれは嘘だし、彼のことが好きだといいきってしまうこともできないのだけれど。
「真砂子!なにやってんの?」
唐突に呼ばれ、真砂子は我に返った。
「待ち合わせ場所間違えた?この隣の交差点だったんだけど、わかりにくかったかな?――あ、マフラー見てたの?もうバーゲンの参戦準備万端?」
「麻衣……」
機関銃のように喋る友人に、真砂子は内心で溜息をついた。
一月ぶりに会う友人は、相変わらず喋りだすと止まらないらしい。
「あ、ねえ!アレ!ナルっぽいよねー?」
麻衣が指した先には、例の黒いマフラーがある。
「……わかりやすい思考回路ですこと」
自分のことはすっかり棚にあげて、真砂子は笑った。
「なんかその言い方ヒドくない!?」
「事実ですから」
「キーっっ!どうせあたしは単純ですよ!でも、似合うと思うんだけどなぁ」
「誰も似合わないだなんて言っていません」
「…………」
「ほら、早く行かないと。混んでしまいますわよ」
呆けたように見返す麻衣を促して、真砂子は歩き出した。
「ちょっ……!待って……!」
「待ちません」
「あたし、アレ、もうちょっと見たい……!」
「御自分のものを見にきたのではなかったかしら?」
「イジワル!後でお茶奢るから!」
あまりにも必死な友人の姿に、真砂子は思わず笑みを漏らす。
「仕方ありませんね……」
まだ当分はどっちつかずのこのままで。
友人との奇妙な同盟を継続させるのもいいかもしれない。
END
寒中見舞い再掲。
たまに、麻衣はナルより真砂子の方が好きなんじゃないかと思うし、真砂子にしても然り(笑)。
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