あとがきとかメモとか諸々。
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CFY:ボビーと他
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「ったくさー、信じらんないね。女の買い物ってなんでこんなに長いんだろ。知ってたけど」
はああ。と、ボビーは溜息をついた。長い脚を投げ出して、椅子の背に体重を預ける。
ボビーの足下にはいくつかの紙袋が並んでいた。どれも婦人物の洋服やアクセサリーの包みだ。これが全てボビーが今待っている彼女の戦利品だとすれば、彼が愚痴をこぼしたくなるのもなんとなくわかる。
「何、あいつ、さっきから何してんの?」
「ポリーの買い物の荷物持ちだと」
「ポリーは?」
「まだ買い物中」
「持ってないじゃん!?」
「体力なくてドロップアウトして休憩中、だと」
「それ、荷物持ちいわない。ただの番犬」
「荷物だって全然自分じゃもたないしさ。そりゃあ、『いいよ。荷物くらい持つよ』っていったのは僕だけど」
そうですか。と、ボビーの向かいに座っていた紳士が口を開いた。
「まあ、自分で言ったなら仕方ありませんね」
「そうだけどさー」
「体力的に差があるのだから、多少重い物を男性が持つのは当然では?」
「だからって買った物全部ぽんぽん持たせるかな、フツー!?」
「女性とはそういうものです」
表情一つ変えずに、紅茶を啜る。
「うん。妻帯者はいうことが違う」
「実感こもってるよな」
「俺、嫁さんもらうのもうちょっとたってからでいいや」
「え、てゆーか、あのおっさん何やってんの?」
「奥さんの荷物持ちで以下略」
「なんかなー、たまに男ってとても情けない生き物だと思うよ、俺は」
「大体さー」
と、無意味に組んだ足の先をぶらぶらさせながら、ボビー。頬杖をついたまま、テーブルの上にあるお茶請けのクッキーに手をのばすと、ボビーはそれを口に放り込んだ。ボリボリとクッキーを噛み砕く音が響く。
「自分が待たされるのは嫌なくせにさ、ひとのことは平気で待たせるんだよ。ちょっとは自分が待ってみればいいんだ」
「こう考えてみたらいかがでしょう」
紳士はティー・コージを外し、ボビーと自らのカップに紅茶のおかわりを注ぐ。その一連の手付きは手慣れたものだったが、この紳士が紅茶を注ぐ姿というものはどこか胡散臭い。
――……とても胡散臭い。
「ひとを待つということは、そのひとのために時間を使うということです」
「うん」
「時間は貴重なものですね」
「そーだね」
ごっくん。
「そりゃあ、気に入らない相手に貴重な時間を割くのは嫌ですけどね。好きなひとになれば話は別です――はい、お茶どうぞ」
「どうも」
ずずっ。
「確かに、待っている間の時間はどうすればいいのかわからないし、時間が流れていくことに戸惑うかもしれませんが。その時間も相手のために使っていると思えば、そんなに腹も立たないのでは?」
「そうかなー?」
「待っている間、そのひとのことを考えますね」「そりゃあね」
「ということは、少なくとも待っている間の思考はそのひとに支配されているということです。それが好きなひとなら、私はしあわせなことではないかと思うんですがね」
「――……うわ」
「なあ、なんかヤバくね?」
「なんだ、ただのマゾか」
「それで平気な顔して二時間も待ってるのか?」
「しあわせっつーか、めでたいだけじゃ……」
「俺はむしろ恐さを感じる」
「そっかなー?そんなもん?」
「そんなもんです」
と、紳士は肯く。
すぐ後ろでギャラリーが「ちがうちがう」と力一杯否定していることも知らず、「まあ、そんなもんかもしれないね」とボビーはもう一度ティー・カップに口をつけた。
END
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