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あとがきとかメモとか諸々。
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ACL:コニーとグレッグ




 *****

 「部屋とか持ち物ってさあ、その主を表すって思わない?」
 「そうだね。よくそういうね」
 「内面とか、思考とか。なんていうの?性格、人格?」
 「人間性?」
 「……なんかしっくりこないわね――まあ、いいわ。とにかく、そういうの。それを表してるって思うわけよ、私は」
 「同感」
 「とゆーわけで物置以下のこの部屋はそのままあんたの頭の中よ!」
 ダンっ!
 と、彼女は両手に抱えていた本の数々をテーブルの上に置いた(落とした、といった方が正しいかもしれない)。
 部屋の中には色々な物がいたるところに散乱していた。
溜まった新聞はラックに適当に突っ込まれ、洗濯物は干しっぱなし(干されている間隔がまばらなのは、洗って乾いたものから使っていったからだろう)。
 おまけに鉢植えは枯れかかっていて、何の植物が植わっていたのかもわからない。
 ひどい有り様だ。
 「何がかなしくて旦那でも彼氏でもない男の家の片付けなんかしなきゃなんないわけ?」
 「それは君がたまたま、僕が『たまには掃除でもするかー』って思って、掃除始めたところにやってきたからだよ」
 「いっておきますけどね、私はあんたの奥さんでも彼女でもなければ、家政婦でもないのよ?」
 掃除も片付けも自分の家だけでもうたくさんだ。
 「あんたの家の掃除をしてやる義理なんて、全然、これっぽっちもないんだから!!」
 瞬間、彼女が今し方積んだ本の山が雪崩を起こした。
 「――――……コニー、頼んでない」
 「頼まれたってやらないわよ!」
 と、怒鳴り返すと、彼女は半ばやけくそ気味に再び今し方崩れた本を広い始める。
 「いいよ、コニー。もういい」
 「よくない。ああもう、凄い埃。窓。窓開けなきゃ。窓。まどまどまど……ちょっと、近くにいるなら開けてよ、窓」
 いわれるままに彼が窓を開けると、彼女は窓辺に駆け寄って、大きく呼吸をした。二度、三度と深く息をすう。
 窓の外の空気だってお世辞にも綺麗といえないものだけれど。
 それでも、換気をまったくしないよりかは幾分かはマシだろう。
 塵芥と排ガスの混じったダウンタウンの空気は、独特の、なんともいえない臭いがした。埃っぽくて、湿気っているような――嫌な臭いだ。
それが肺に入ってしまったからだろうか、彼女は少しだけむせた。
 「――掃除くらいしなさいよね」
 「してるよ、たまには」
 「“たまには”じゃなくて、マメにしなさいよ」
 「日々の掃除なんて、寝るところとごはん食べるところを清潔にするだけでいっぱいいっぱいです。後は贅沢いえません」
 「馬鹿いってんじゃないの。借アパートだろうがなんだろうが自分の家でしょ?快適にすごそうとかいう気はないわけ?」
 「…………それは思いつかなかったな」
 「あんたってたまに人として大事なところがぼこっと抜けてるわよね」
隣に立った彼を横目で見ながら、彼女は小さく溜息をついた。
 窓の外には灰色の街並みが広がっている。
 セントラルパークも高層建築群もここからはみえない。
 あるのは塗装のはがれかけたボロいコンクリートと、今にも崩れ落ちそうな煉瓦造りの建物ばかり。
 途中で中止されたままの工事現場の周りには鉄条網が張り巡らされている。おそらく、この先工事が再開されることはないだろう。
 中心部にいけばあんなにも華やかで綺麗な街並みが広がっているというのに、少しそこを外れただけでこのざまだ。
 寂しい街だ、ここは。
 「――……ねえ、引っ越ししないの?」
 「は?なんで?引っ越しすれば掃除になるから?」
 「違う。そうじゃなくて……ええと……そうだ、不便じゃない?」
 「いや、別に?もう慣れた」
 「でも、治安とかあんまりよくなさそうだし……不安じゃない?」
 「そうかな?そういうもん?男一人で住んでるぶんにはそんなに気にならないよ」
 「……あ、そ」
 そういわれたら何もいえないではないか。
 そもそも彼がどこに住もうが彼の勝手で、それこそ奥さんでも彼女でもない他人の彼女がとやかくいうべきことではないのだけれど。
 ――なんか後味悪いからイヤなのよ。
 彼に奥さんなり彼女なりがいてくれれば何の問題もないのだが、彼にそれを求めることは酷だろう。この際、旦那だろうが彼氏だろうがかまわないのだが、残念なことに(?)それもない。
 ――だからって私が心配する必要なんて全然ないんだけど。
 何か、後味が悪くて嫌だ。
 ここで数行前に戻って以下同文の思考の堂々巡りだ。
 考えたところでこたえがでるわけでもないのに。
 これ以上窓の外を見ていたくなくて、彼女は視線を室内に戻した。
 「……」
 みなきゃよかった。
 と、珍しく彼女は自分の行動を後悔した。
 色彩を求めて見やった部屋の中は、外と変わらずモノクロだった。
 乱雑に積み上げられた本。
 適当に引っ掛けられたシャツ。
 干からびた鉢植え。
 不思議とその何れもから生活感が欠片も感じられなかった。本来なら、どれもが生々しすぎるくらいに日々の営みを表しているだろうものなのに。
 「――……ねえ」
 「ん?」
 何を訊くつもりだったのだろう。
 ちゃんとごはん食べてる?
 寝れてる?
 家帰ってきてる?
 馬鹿馬鹿しい。
 そんなこと、できてあたりまえだ。大体、仮にそうでなかったとしても、訊いたところでろくな答えがかえってこないことはわかりきっている。
 仕方なしに彼女は「暗い部屋」と冗談めかしていった。
 「ただでさえ採光悪いのに、こんなに散らかして雰囲気まで暗くしてどうすんのよ?」
 「『どうすんのよ?』っていわれてもなあ……どうしようか?」
 「これじゃあ外の様子だってろくにわからないじゃない」
 「ああ……まあ、そうだねえ」
 「そのうち御近所さん達からお化け屋敷扱いされるわよ」
 「お化け屋敷かあ……いいなあ、それ」
 「『いいなあ、それ』じゃないの!」
 彼女は彼を一括すると、勢いよく振り返り、窓の外をさした。
 相変わらず眼下には灰色のくすんだ街並みが広がっているけれど、それでもよくよくみればそれだけではない。
 憎らしいくらいに晴れ渡った空は綺麗な青で、そこには陽の光に照らされて真っ白な雲がまばらに浮かんでいる。
 街の中に微かに点在する緑色はこれからの季節には益々鮮やかになるに違いない。
 通りを行き交う人々は特段声を交わすことはなかったが、季節柄だろうかその装いは華やかで、表情はどことなく明るい。
 建物を出て直ぐのところには街路樹が植えてあり、その枝は窓の外のすぐそばのところにまできている。そこには都会には珍しく、空と同じ色をした青い小鳥がちょこんととまって、首を傾げてこちらをみていた。
 「こんなに外はいいお天気で、空が綺麗で、みんな楽しそうなのに……!なんであんたはそんなこというのよ!」
 世の中がみんなしあわせそうに笑っているなら、彼だってそうであっていいはずだ。
 「――……コニー」
 「なによ?」
 「いいんだ、コニー。みたくない」
 チチチっ、と小さく鳴いて、窓の外の小鳥が空へと飛び立って行った。









end










どうしよう、オチがなかった……。



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