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07:A clumsy expression
CFY:テスとパッツィー



 *****



 パタンと小さな音とともに扉を丁寧に閉めると、テスは「はあ」と静かに溜息をついた。
 「みぃーちゃったあー」
 と、脳天気な言葉が響く。
 声がした方向を見やれば、柱の陰から小さな金髪のふわふわ頭が覗いていた。
 「パッツィー!」
 「はーい」
 彼女は呑気そうに手を上げて、返事をする。
 「ねえ、何嬉しそうにしてるの?何かいいことあった?ね、あたしにも教えてよ」
 ねえ、ねえ、ねえ。
 と、女一人なのに姦しいことこのうえない。
 「別に……何もないわよ」
 「うっそだぁ。ぜーったい、なんかあったんでしょう?あたし、ちゃあんと聴いてたんだから!」
 「何を?」
 「ザングラーさんとの!」
 「――……」
 はああああ。と、テスは今日一日のなかで一番長い溜息をついた。
 「パッツィー」と、静かに名前を呼んで、呆れたように半眼になる。
 「じゃあ、私がザングラーさんと何の話をしていたかこたえてちょうだい。一字一句、間違えずにね」
 「!?」
 「嘘はよくないわね、パッツィー」
 「う、ウソなんかじゃないわよ!」
 「30字以内に要約してこたえてくれてもいいわよ?」
 「――っ!」
 テスがそういってにっこりと微笑うと、それとは対照的にパッツィーは渋い表情で黙りこんでしまった。
 この扉は劇場の扉だけあってきちんと防音されている。さほど大きな声で話していたわけではないのだから、扉の向こうの話し声が聞こえるということはない。仮に何か聞こえたとしても、ぼそぼそとした話し声が微かに聞き取れるくらいだろう。会話の内容がわかるということはまずない。
 「じゃあ、何の話してたか教えて」
 開き直ったのか、悪びれもせずにパッツィーはそう訊いてきた。
 「別に……どうってことない話よ」
 「どうってことない話なら話してくれてもかまわないわよね?」
 テスは内心で本日何度目かわからなくなった溜息をついた。
 相変わらず、そのテのにおいを嗅ぎつけるのが得意なようだ。
 「――……ザングラーさんがね」
 「うん」
 「もう一度、ショーをやってくれるって」
 「うんうん」
 「……」
 「――」
 「…………」
 「――――で?」
 「『で?』って?」
 「それだけ?」
 「……それだけ」
 「うそ!?」
 「本当」
 「うそよ、ウソ!うそうそうそ!ほんのちょっとだけ間があったもの!!あたしはだまされないわよ!」
 「騙してなんかないってば!」
 パッツィーを一人を騙したところで何の得にもならない。
 というと、彼女は「馬鹿にしないで!」と猛烈に抗議をしてきたが、不本意ながらも納得してくれたようだ。
 「まあ、いいわ。じゃあ、みんなにも知らせないとね」
 泣いた烏がなんとやらではないけれど。
 パッツィーはすぐに機嫌をなおしていつものようにコロコロと笑うと、テスの先に立って歩き始めた。
 「――ねえ、テス」
 「なに?」
 「本当にそれだけだった?」
 「……」

 『君のためだ』
 『君の――』

 「――……ええ、それだけよ」
 と、テスは柔らかく微笑んで、先を歩くパッツィーを追い越していった。











END






異国の言葉で10綴り
07:A clumsy expression(不器用な表現)
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