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08:Feelings revive. 
CFY:アイリーン





 *****

 例えば、その日一日のやることを終えて、夕飯の支度をしながら彼の帰りを待つとか。
 例えば、週末の予定をやりくりして何とか二人の時間を作ったりとか。
 「憧れてたのよ、そういうことに」
 ぽつりとアイリーンが漏らした言葉は、その口から出るには意外なものだった。
 「馬鹿みたいでしょう?」
 「いいえ」
 女ならば多かれ少なかれ、一度くらいそんなことを考えるものだ。
 彼女がそうこたえると、アイリーンはそれこそ意外だとでもいうように、少し目を見張った。
 「あなたも?」
 「私は……あんまりそういうことはなかったけど」
 「そう」
 「ええ、まあ」
 と、彼女は曖昧に微笑った。
 「でも、そういうのって素敵だなって思うけど?」
 「ありがとう」
 もっとも、憧れと現実なんていうものは程遠いもので。
 「――まあ、そのうちそんなことも忘れたけどね」
 一緒にいたかった。
 多分、一番最初の理由はそんなような単純なものだ。
 だから追いかけて、追いかけて――そうすると、彼がまた逃げるから、また追いかけて、追いかけて――いつのまにか、こんなところにまできてしまった。
 「我ながら馬鹿だったなあって思うわけよ」
 「後悔してる?」
 「そうね。こっちの日差しのせいで髪とお肌のケアが死ぬほど大変になったことに関してはね」
 「ああ、それは私もそう思う」
 でも、まあ。と、アイリーンは続ける。
 「それ以外はそんなでもないわ」
 自分でも驚くほどに。
 決定的に彼と別れてから(間違っても“フラれた”なんぞという単語は、アイリーンは使わない。)、さほど時間がたっていないにもかかわらず。
 それに、何の因果かすぐ隣に別れた相手が結婚して世にもしあわせそうに暮らしているというのに。
 冗談混じりにそういうと、ころころとした笑い声が返ってきた。
 「それはね、あなたがそんな余所様のことなんか気にならないくらいしあわせだってことじゃないかしら?」
 「……」
 その感情の向かう方向性はほんの少し変わったかもしれないけれど。
 根底にあるものは変わらない。
 しばらく忘れていた、あの感覚。
 例えば、――――
 「まあ、そうかもね」
 アイリーンは苦笑し、「悪くはないわね」と呟いた。










END





異国の言葉で10綴り
08:Feelings revive. (蘇る感情)


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