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あとがきとかメモとか諸々。
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2009年寒中見舞い猫。





 *****

 「あぁっ!また逃げられた!」
 ジェミマは半ば悲鳴じみた声をあげた。
 カーバケッティはのんびりと欠伸をし、ジェミマに「誰に?」と訊く。
 「ランパスに!いつもこの時間ここにいるのに!」
 予想通りのこたえにカーバケッティは苦笑した。
 「残念でした。さっきふらっと出ていったよ」
 「絶対わざとよ、それ!」
 と、ジェミマは悔しそうにいうと、「信じらんない」と頭をふる。
 ふと、ジェミマが抱えている籠が目に入った。籠の中には真新しい毛糸がいくつか入っている。色は何色かあるが全て渋めの色合いで統一されており、ジェミマのような年頃の女の子が好みそうな色はなかった。
 「あ、何?毛糸玉作るの?手伝ってあげようか?」
 大方、あの超面倒くさがり屋は、こういう手伝いをさせられるのが嫌で逃げ出したのだろう。
 「毛糸玉……って、毛糸ってこのままじゃ使えないの?」
 「使えないことはないけど……絡まったり、思うように長さがとれなかったりで使いにくいよ」
 「ふぅん?」
 今一つわかっているのかいないのかわからないという表情でジェミマは頷いた。
 カーバケッティには、この先、編んでいる途中で毛糸が絡まってジェミマが泣きをみる日がやってくるのが手に取るように見える。ついでにいえば、そうなったときにその毛糸を解いて後始末をしてやるのもカーバケッティ自身だろうということも、今までの経験上悲しいことによくわかっていた。
 カーバケッティは溜め息をつくと、無造作に毛糸を一つ手に取った。
 「……とりあえず、両手をぱーにして前に出して、そのまま動かさないでね」

 *   *   *

 毛糸が巻き付けられて手の自由がきかなくなったことの代わりとでもいうように、ジェミマはよく喋った。
 「でねでね、ランパスってばヒドいんだから!あたしが死ぬほど苦労して焼いたクッキー食べて、感想が一言『悪くないな』だけよ!信じらんない!」
 「はいはい」
 信じらんないのはこっちだ。と、カーバケッティは内心で溜め息をついた。
 ジェミマが確かに文字通り“死ぬほど苦労して”クッキーを作ったのを、カーバケッティは知っている。何故なら、そのクッキーを作る過程で、ジェミマがジェニエニドッツ宅のキッチンを半壊させたことは記憶に新しい。ついでにいえば、その後始末に駆り出されたことはもっと記憶に新しい。そうしてできたものはクッキーとよべる代物ではなく、ただの小麦粉のなれの果てとしかいいようがなかったはずだが。
 ――そうか、食べたのか……アレを。
 ランパスキャットの勇気にカーバケッティは密かに賞賛を送った。
 「でね、それでね」
 その後もジェミマのとりとめのないお喋りは続いたが、話題は八割方、ランパスキャットのことだった。
 もしかして、これはいわゆるノロケとゆーやつだろうか?
 と、カーバケッティが気付いたころには、毛糸玉は二つ目にはいっていた。
 「えぇと……ジェミマ。ところで、この毛糸って何に使うのかな?」
 「決まってるじゃない。毛糸なんだから。編み物するのよ」
 マフラー編むの。と、ジェミマは当然のように続ける。
 「君の?」
 「何が悲しくて自分で自分のもの編むのよ」
 誰の?とは訊かなくてもわかった。
 カーバケッティはランパスキャットが逃げ出した理由が何となくわかった。ランパスキャットの性格からいえば、目の前でやがて自分に渡されるであろうものを作る(というより、もしかしたら何色がいいかランパスキャットに選ばせるつもりだったのかもしれないが)ジェミマの姿をみるというのは耐えられないだろう。
 ジェミマは「カーバのじゃないから安心して」と笑う。
 「カーバはディミから貰ってね」
 「だったら嬉しいねぇ」
 「大丈夫よ、そんなに悲観しなくても。ディミは、確か一つ練習に作るはずだから。サンプルとしてくれるわよ」
 「さり気なくとどめをさしてくれてありがとう」
 それこそ、何が悲しくて好きな女が他の男のために編んだマフラーの試作品を貰わなければならないのだろうか。しかし、実際にディミータから手渡されればそんなものでも受け取ってしまうだろう。そんな自分が、一番悲しい。
 それに比べてランパスキャットはといえば、(かなり犯罪くさいが)可愛い彼女が一生懸命に――おそらく、編み物なんてするのは初めてだろうに、頑張ってくれている。
 ――不公平である。
 これから先、おそらく発生するであろうハプニングと怒涛の途中経過を差し引いたとしても、不公平である。
 正直、手編みのマフラーは女の子の浪漫なんであって、男の身としては貰ってもかなり重たい貰い物であるとか、そんな御託は聞きたくない。この差は一体何なんだろうか。
 ものすごく不公平である。
 「はい、できた」
 カーバケッティは二つ目の毛糸玉を作り終えると、ジェミマに残りの毛糸が入った籠を手渡した。
 「まだ残ってるよ?」
 「そうだねぇ、残ってるねぇ」
 こんなにも不公平なんだから、少しくらい意地悪をしたところでバチはあたらないだろう。
 「でも、悪いけど、俺もこの後用事があるんだ」
 と、いいながら腰を上げ、ジェミマが入ってきたのとは反対の扉の方へと歩いていく。
 納戸となっているその扉をカーバケッティは勢いよい開いた。
 「とゆーわけで、後はこのこの怠惰猫が責任もって最後まで付き合ってくれるそうだよ」
 「!?」
 扉に寄りかかっていたのか、中から猫が一匹転がり出てくる。
 剣呑な目つきで睨みつけてくる大柄な白黒ブチ猫に、カーバケッティは満面の笑みをみせた。
 「……たばかったな、てめぇ」
 「冗談。俺はいつだって女性の味方だからね。君に肩入れする気はない――とゆーより、最初は若干同情しないでもなかったけど、失せたよ。そんなもん」
 「てめっ……!」
 と、何か言いかけたランパスキャットの足を思いきり踏みつけて黙らせる。
 「下手に逃げるからこうなるんだよ」
 カーバケッティは大人しくなったランパスキャットの首根っこを掴まえると、ジェミマに差し出し、極めて紳士的にこういった。

「お嬢さま。ご所望の者をお持ちしました」

 ジェミマにランパスキャットを渡し、カーバケッティは静かにその部屋を後にした。
その後、如何様な修羅場が繰り広げられたのかは、カーバケッティには知る由もない。
 用事もないのに出てきた外は、普段よりも少し寒い気がした。
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