あとがきとかメモとか諸々。
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2009年寒中見舞いGH。
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礼拝の最中、壇上から見知った顔を見つけて、ジョン・ブラウンは微かに目を見張った。
年が明けてしばらく。
同じ会派のとある私立校でのミサに、ジョンは出席していた。
この学校は定期的に一般にも開放したミサをやっており、最近、ジョンはそれに出席することが多かった。というより、人手不足で駆り出されることが多かった、といったほうが正確かもしれないが。
そのミサは、通常の礼拝の他にも聖歌やハンドベルの音楽会みたいなものがあり、信徒の他にも一般人がそれらを目当てにくることも多かった(なんでも、この学校の合唱部は全国大会でも良い成績を残しているらしい)。
だから、信徒でもない彼女がそこにいたところで別段不思議なことはない。
彼自身、過去に彼女をこの礼拝に誘ったこともある。
それでも、彼女がそこにいることは意外だった。
どうして彼女が此処にいるのだろうか。
考えたところで、思い当たる理由は一つしかない。
内心で深い溜め息をつきながら、ジョンは聖書の続きを口にした。
説教を終えると、ジョンは脇の通路を通って、静かに講堂の一番後ろの方へとむかった。出入り口に程近い席に、彼女は一人で座っている。彼女は、彼がやってきたことに気付くと、そっと席を詰めた。
舞台上では既に、吹奏楽部と合唱部による聖歌の斉唱が始まっている。ジョンは物音を立てないように注意して、静かに彼女の隣に腰を下ろした。
「今日は着物じゃないんですね」
「いくら年明けとはいえ、あの格好では目立って仕方がありませんから」
「気づきませんでした、最初」
「まぁ。なら、次にブラウンさんとお会いするときも洋服にいたしますね」
そうすれば、いずれ洋服にも見慣れるでしょう?と、真砂子はいう。
ジョンはそれには応えず、苦笑を返した。
「……いらっしゃるとは思いませんでした」
「まぁ、あたくしが来てはいけませんでしたか?」
「そんなことをいってるんじゃありません――……何をしにいらしんですか?」
言いながら、自分が滅茶苦茶なことを言っていることに気付いたが、敢えて訂正する気にはなれなかった。
「矛盾していますよ」
と、彼女は微笑む。
機嫌が良いのだろうか。どうやら、今の言葉で気分を害した様子はないようだ。
「あたくしだって霊能者ですもの。宗教行事には興味がありますわ」
確かに、松崎や滝川に頼んで機会があればそういうものを見学させてもらっているのを、ジョンも知っている。
「そうですね、それでも、強いていえば――……ブラウンさんのお仕事姿を拝見しに」
「……見せ物じゃありません」
ジョンは少し眉根を寄せる。
遊びじゃないのだ、これは。
真砂子は「ごめんなさい」と申し訳なさそうに言い、「でも……」と続ける。
「ブラウンさんだって、年末年始にあたくしが出ていたテレビをご覧になったのではありませんか?」
「…………」
そういわれると、何ともいえない。
年末年始、真砂子はよくテレビに出ていた。普段、メディアの仕事を嫌って、なるべくテレビに出ないようにしていることからは考えられないくらいに、だ。
当然、真砂子を目にする機会は多くなる。
もっといってしまえば、年末にあった某生放送番組に真砂子が出ると情報を安原が仕入れてきたため、SPRに集まって皆でその番組を見たりもした。
悪気は欠片もなかったが――あれを見せ物といわずになんといおう。
ジョンはおとなしく、「すんません」と非を認めた。
「いいえ――だから、これでおあいこです」
ね?
と、真砂子は笑う。
諦めたかのように、ジョンも笑い返した。
「……次は、連絡してからきてください。心臓に悪いです」
「えぇ。善処いたします」
善処では困るのだが、そこはこの際良しとすべきだろうか。
そこまで話し終える頃には、吹奏楽部と合唱部は退場し、舞台上ではハンドベルの演奏が始まった。
金属の音が一音一音講堂内に響く。それは銀色の星が振るえているようだった。
「……綺麗」
ぽつんと真砂子が呟いた。ジョンもそれに肯き、その音の流れに耳を傾けた。
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