あとがきとかメモとか諸々。
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BB:ベル+@
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城での生活は概ね快適だった。
特別困ることはなかったし、城の人(というか何というべきか)は皆親切だ。
父親のことは気がかりだったが、逆にいえばそれだけが気になることだともいえる。
馴れてしまえば此処での生活はとても楽しくて、有意義なものだ。ある意味、あの街でのものなんかよりも、ずっと。
ベルは天井を見上げる。
図書館の天井は高い。
床から天井までそびえ立つ本棚は圧巻だ。その全てに本がぎっしりと詰まっている。
ベルの手元にある本はその何百、何千分の一だ。全部を読み終わるまでにはどのくらい時間がかかるだろう。
窓辺では彼が分厚い本を枕にうたた寝をしている。
基礎さえできていれば、読み書きができるようになるのは早い。幼い頃に少し習っただけだというそれは、ベルが教え始めるとるとすぐに上達した。今では、一人で簡単な本なら読める程だ。
それでも読書は疲れるのか、それとも本の内容がつまらなかったのか。
けむくじゃらで厳つい野獣だが、おとなしく眠っている姿というのはなかなか可愛らしい。
かなりでかいが。
自然と口元の筋肉が緩むのを感じながら、ベルは本に視線を戻した。
『物品とは。』
「……」
『有体物たる動産であって、一定の形を有し、独立して市場において取引の対象となるものをいう。』
先程、何とはなしに手にとった本だ。
読み始めたはいいが、会話も絵も何もない本のページはなかなか進まない。
『物品の部分とは、物品の中で一定範囲を占め、他と対比できるものをいう』
『物品の中に分離している部分があり、その部分が機能的、形態的一体性を有さない場合、その部分は二以上の部分となる』
興味のない本は退屈だ。
いくら本好きとはいえ、つまらないものはつまらない。そうすると、必然的にページを繰る手は遅くなるし、どんなに文字を目で追っても内容は欠片も頭に入ってこない。それに、読んでいると段々眠くなってくる。
これでは彼のことを笑えない。
「御主人ー。マドモアゼルー」
声の聞こえる方向を見やれば、いつの間にきたのか、給仕長が図書館の入り口に立っている(という表現が適切なのかはわからないが)。
『物品の部分のうち、互換性を有し、それ自体が独立して市場において取引の対象となるものを部品という(部分品)』
『部分品は物品である』
「お食事の用意が整いました」
蝋燭と燭台からなる給仕長はベルと視線が合うと、何か嬉しいことがあったときにするように、器用に左手の蝋燭に火を灯らせた。
(――……二物品)
と、ベルは口に出さずに呟いた。
彼を彼自身として一体として捉えると、彼は蝋燭という部分と燭台という部分の二つの部分から成立している。蝋燭と燭台は分離していて、その二つには機能的、形態的一体性はないからだ。
そして蝋燭も燭台も独立して市場において取引の対象となる。
即ち、二物品。
「私に何か?」
「いいえ。なんにも」
考えていた内容が顔に出ていたのだろいか。
ベルは慌てて首を左右に振った。
改めて彼を見て、多少後ろめたさを感じながらも、思う。
二物品ということは――
(首のすげ替えはいつでも可能ってことかしら)
そこから先を考えることは、さすがのベルにもできなかった。
豊かな想像力もここは自重すべきだろう。
小さな溜め息とともに、ベルは本を閉じる。
「すぐにいきます」
と応え、軽やかに階段を降りはじめた。
end
参考
『工業所有権法逐条解説』(発明協会)
意匠登録出願審査基準
意匠法施行規則別表1
他。
消耗品で2物品って割と救いようがないと思う。
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